サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
「こういう業界にいると、要らぬ噂は絶えません。特に私のような人間の場合、交際自体が困難を極めて、上手く行く方が奇跡です」
「分からなくもないですが、それとこれとは話が別ですよね」
「財前さんほどのスペックをお持ちでしたら、女性は選び放題でしょう?」
「………」
財前の片眉がぴくっと反応した。
「好きな時に好きな人と好きな場所に好きなだけ……。私には縁のない話です」
「貴女の愚痴や性癖を聞くために来たわけではありません」
目の前の女の思考回路との温度差が浮き彫りになる。
言葉で解決するのはもはや無理だと判断した。
「訂正するようで申し訳ないのですが、私の婚約者は胸部外科医をしておりまして、就寝中だろうが休日中だろうがオペに呼び出される日々を送ってます。私も機長として不規則なフライト業務がありますし、それに経営陣の一人として実務もこなしてます。貴女が思っているような自由な時間を過ごしているわけではありません。同じ家に住んでいても一カ月でまともな会話をするのは数回ということもあります。私から見れば、よっぽど貴女の方が時間的拘束も無く恵まれていると思いますけど」
財前は和久井に鋭い視線を向けたまま、席を立つ。
「胸部外科医として毎日執刀している彼女が精神的苦痛で、万が一医療過誤でも起こしてしまった時は、その慰謝料を請求させて頂きます。勿論、当社への損害が発生する場合も然りです。安直な行動は身を亡ぼすということをお忘れなく」
「っ……」
「あ、それと。……当社では記者会見だとか事実説明の通達等は一切しません。ご自分で蒔いた種はご自身で摘み取って下さい。……酒井、行くぞ」
「はい」