サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

「宜しかったのですか?」
「何が?」
「あのまま、野放しにして……」
「野放しにしたつもりはない。あの女に反省する意思があれば、行動に移すだろう」
「ですが、万が一……」
「その時は、……この手で再起不能にするまでだ」
「………」

本来なら事実関係を明らかにし、慰謝料を請求する意向であった。
けれど、人気アナウンサーという立場を考え、対処する時間を与えたまで。

人間誰しも過ちは起こす。
恋愛に吞まれている時ほど、冷静な判断が下せなくなるのは理解しているつもり。
だからといって、他人を巻き込んでいい理由にはならないが。

カツカツと小気味いい靴音を響かせながら、財前と酒井はホテルを後にした。

「社に戻られますか?」
「そうだな、昨日の分の仕事もまだ残ってるしな」

十二月にもなれば日が暮れるのも早い。
車で市街地を走れば、クリスマス向けのイルミネーションに囲まれる。
普段なら心が弾むようなこの灯りも、今は鋭い針のような棘に思えるほど、色めき立つ雰囲気を味わう余裕はない。



会社に戻り、溜まっている稟議書に目を通す。

「失礼します」

酒井が珈琲をデスクに置いた、その時。
ブブブブブッとジャケットにしまってあるスマホが震えた。
スマホを取り出し確認する。

『今朝は差し入れ、ありがとうございました。スタッフの分まで、いつもすみません』

仕事が一段落ついたのか、それとももう終わったのか。
彩葉からの御礼メールが届いた。

『嫌な思いさせてすまない。なるべく早くに帰るから、少し話そう』
『はい』

電話をかけたら声が聞けるのかもしれない。
すぐさま返信が来た。
けれど、電話で済ませていい内容ではない。
ちゃんと顔を見て、謝罪しなければ……。

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