サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
平日の十八時過ぎは外来時間は終わっていて、時間外診療や面会の人しかいないような時間帯。
少し照明が絞られていて、薄暗くなっているその場に赤い服の上に黒いコートを羽織った女性が立っている。
つい数分前にスマホで見たばかりの女性と同じ服を着ていて、視線を上に持ち上げると、テレビでよく目にする人気アナウンサーの和久井沙雪がそこにいた。
……昨日の報道、つい数分前に検索サイトのニュースで見た、その人物だ。
「和久井沙雪と申します。少しお時間宜しいでしょうか?」
「………お話することはないかと思いますけど」
「聞いて頂きたいお話がございまして」
「………」
どういうことなのか、さっぱり分からない。
ドラマや映画であるような展開だ。
「少しでしたら……」
「有難うございます」
彼女は微笑しながら、軽く会釈した。
彼女が何をしたいのかは分からない。
郁さんのことが好きで、別れて欲しいとでも言うのだろうか?
「ここにいては職場に迷惑がかかるので、場所を変えたいのですが」
「はい、では、別の場所に」
外来の時間は終了しているとはいえ、全くスタッフがいないわけではない。
しかも、裏口の通用口ならまだしも、ここは正面玄関。
待機しているタクシーもいるし、面会に訪れている人が結構いる。
首に巻いているスヌードを抓み上げ、停車している一台のタクシーに乗り込んだ。
私と和久井さんを乗せたタクシーは、彼女の行きつけだという和食処に到着した。
既に部屋が確保されている所をみると、私を連れて来る気だったのだろう。
すぐさま二人分の食事が運ばれて来た。