サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
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「酒井、そろそろ上がってくれ」
「本部長も上がられますか?」
「いや、……俺はもう少しやってからにする」
「あまり無理をなさらずに」
「……ん、お疲れ様」
「お疲れ様です、お先に失礼します」
二十三時を回っていて、さすがに酒井の嫁さんに悪いと思い、先に退社させた。
もっと早くに帰してやりたいところだが、リカバリーする期間が二週間しかないため、なりふり構っていられない。
一つでも多くの資料と情報と、トドメを刺すアイテムを準備する為に。
出来るだけ早くに帰ると伝えていたのに、結局この時間まで仕事をしている。
すぐにでも彼女に謝罪すべきなのに。
『もう少しかかるから先に寝てていい』と連絡を入れようとスマホを立ち上げると。
毎度の事、緊急オペの要請が入ったとメッセージが入っていた。
有難いような申し訳ないような。
何とも言えない気持ちにさせられる。
彩葉とすれ違い生活をするのはもう慣れたが、今回ばかりは今までと違う。
彼女を苦しめる原因が俺にあって、しなくてもいい辛い思いをさせてしまった。
一応、結納する前に彼女には話してある。
『大企業の御曹司』という肩書や重責がある上、頻繁にメディアに取り上げられている以上、何らかの形でプライベートが明るみに出るかもしれないということを。
だから、彼女自身覚悟した上での婚約なのは理解しているはず。
それが、どれほどの精神的苦痛を伴うかは計り知れないが……。
だからといって、彩葉を放置するわけじゃない。
仕事同様、彩葉は俺の人生にとって、なくてはならない存在だ。