サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

葛城先輩の言葉はオブラートに包まない分、グサッと来るけれど、それが一番の特効薬だと知っている。
いつだって私の心配をしてくれるし、遠慮のない言い方だけど、ちゃんと『女性』として扱ってくれる。

だからといってときめいたり、男として意識したことはない。
先輩が可愛い妹のように接してくれているように、先輩は頼りになる兄のような存在だ。

「倒れる前に言えよ。……穴埋めならいつでもしてやるから」
「ありがとうございますっ」
「寝るなら、シャワーしてスクラブ着替えてからにしろ」
「はぁ~い」

先輩の言いたいことは分かっている。
オペ準備完了の声がかかるまで、ギリギリまで寝れるように、すぐにオペに行けるようにしてから寝ろということも。

素っ気ない態度を取る先輩だけど、その優しさは一番よく分かってる。
あんな風に、さりげなく気遣える医師になりたいと常々思うほどだ。

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「環、今日はもう上がっていいぞ」
「え?……まだ十五時ですけど」
「昨日も一昨日も緊急オペでゆっくり休めてないだろ」
「………はい」
「葛城から休ませるようにしつこく言われたからな」
「先輩が?」
「俺の気が変わる前に上がれよ」
「っ……はいっ、お言葉に甘えて、お先に失礼します」

先輩の計らいもあって、部長から退勤の許可が出た。
こんな事、初めてだよ。
明日、台風でも来るんじゃないかな……。

年末に向け、急患が多くなる時期だから、うちの科も必然的にオペ率が否応なく上がる。
だからこそ、体調万全に執刀に臨むようにといつもミーティングで言われるくらいだ。

更衣室で着替えを済ませ、郁さんに連絡を入れようとした、その時。
電池が切れたかのような、血の気がサーっと引き、気付いたら床に手をついて座り込んでいた。

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