サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
今のは何?
体が丈夫なのが取り柄の私は、これまで大きな病気も怪我も無く、至って健康で生活して来た。
疲労蓄積で意識が朦朧とすることはあっても、病的な感じで倒れることは今まで一度もない。
そんな私が、ドクドクと尋常じゃないくらい心臓が脈打って。
味わった事ない動悸に襲われている。
次第に床の冷たさが伝わって来る。
数秒、いや何十秒も座っているからだ。
意識はあるのに、予期せぬ症状にショックを受けて正直体が言うことを利かない。
早鐘を打つことはあっても、病的な意味合いで動悸がしたことがない体なのに。
今さっきのは完全に病的なものだと分かるだけに、次のアクションが起こせずにいる。
医師だからこそ、分かることもある。
胸部外科医だからこそ、分かることがある。
疲労蓄積による心臓への負荷であって欲しいと思いながら、ゆっくりと腰を上げた。
まだ少し血の気が引くような、気持ち血生臭いような気がしなくもない。
……貧血?
そう言えば最近鉄分が不足してるかも。
長時間立ちっぱなしで執刀するから、おやつ代わりに乾燥フルーツを摂って鉄分補給する癖がついてるけど、最近はおやつの時間すらままならないほど忙しかったからなぁ。
「栄養のあるものでも買って帰ろうかな」
ロッカーから鞄を取り出し、更衣室を後にした。
葛城先輩にお礼メールを入れておき、郁さんに電話をかける。
けれど、例の件で対応に追われているのか、留守電に切り替わった。
仕方なく、秘書の酒井さんに電話を入れる。
『はい、酒井です』
「環です。お忙しい時にすみません」
『いえ、大丈夫ですよ』
「郁さん、留守電になるんですけど、忙しいですよね?」
『……そうですね』
いつもの明るい声音でないことが、それを物語っている。