サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

久我医師の言葉が脳内を反芻する。

『このまま放っておけば、手遅れになりますよ』

自分の体なのに、忙しさに追われて見てみぬふりをしていた。
確かに半月くらい前から休んでも疲労感は取れないし、軽い眩暈も頻繁にあったけれど疲れているからとばかり思っていた。

まさか、自分の体が……。

「あの……」
「はい」
「我がまま言って申し訳ないのですが、病院内(ここ)にいると病院にご迷惑がかかるかと思うので、薬剤を持ち帰ってもいいでしょうか?」
「それは構いませんが、仕事は厳禁ですよ?」
「……はい、上司に話します」
「もし話づらいようでしたら、私の方から話しますので、遠慮なく仰って下さい」
「……お気遣いありがとうございます」

病院内には一応箝口令が敷かれている。
私と郁さんの関係は既に周知の事実だし、報道があったとはいえ、病院長は私の味方でいてくれるようで心強い。

だから、陰口を叩かれることはあっても、処分が下るようなことにはならないと。
それだけでも十分有難いのに、こうして対応してくれることが身に余るほど嬉しくて。

「では、薬剤を用意して来ます。もう少し休んでて下さい」
「……何から何まですみません」
「ASJさんには妻がお世話になってますので」

クスっと柔らかい笑みを浮かべた彼。
久我医師の奥様である女優の来栖 湊(三十歳)が、ASJの広告塔だからだ。

ぽたぽたと落ちる点滴を眺め、これからのことで不安に駆られる。

どうしたらいいのだろう。
郁さんに伝えるべきなのだろうけど、今は大変な時だ。
余計な気を遣わせるのは避けたい。

自宅でずっと横になっていれば、必然的に彼に知られてしまうし。
実家は遠すぎて、この体で帰れるだろうか?

職場に程近いホテルに滞在するのが一番だけど、薬剤の処理が心配になる。
どうするのが一番いいのだろう……。

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