サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
*
「彩、…葉?」
「…せん……ぱぃッ…」
大学病院の職員専用駐車場に駐車してある葛城の車の前で、彩葉は葛城が来るのを待っていた。
「お前、だいぶ前に帰ったんじゃなかったのかよ」
「……ぅっ……っ……ンッ…」
「何か、あったのか?」
男社会の胸部外科医として、無理にでも常に虚勢を張っていないとやっていけない。
どんなに辛いことがあっても、職場で涙を流すなと言われ続けて来た。
だから、仕事でもプライベートでも、辛いことが多々あったとしても必死に耐えて来た彩葉だが、さすがに今回ばかりは耐えれそうになかった。
「とりあえず、乗れ」
口元から漏れ出す息が白く、今にも凍りそうなほど冷え込んでいる午後十九時半過ぎ。
何時からここにいるのかは分からないが、彩葉の唇の色が蒼ざめているのに気づき、すぐさま助手席のドアを開けた。
葛城はすぐさまエンジンをかけ、カーヒーターの温度をMAXまで上げる。
カーナビのライトに照らされた彩葉の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「何があったんだよ」
「…う゛っ……んっ…」
「泣いてちゃ、分かんねぇだろ」
前の恋人と別れた時以来の取り乱し様に、葛城も驚きを隠せない。
「財前さんと何かあったのか?」
「……っ……んっ…」
「ったく、お前らしくねぇなぁ……」
普段から気丈に振る舞う彩葉だけに、何て声をかけていいのか躊躇してしまう。
「ん?……それ、何だ?………何だよ、この輸液」
彩葉の手に握られているビニール袋に大量の輸液や薬剤が入っていた。
その薬品名を目にした葛城は、彩葉が号泣する理由を知ってしまった。
「じっとしてろ」
ビニール袋を握りしめ、俯いたままの彩葉にシートベルトを装着した。