サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



「彩葉、仕事行くけど、点滴はアラームかけて自分でしろよ」
「……はい」
「部長には俺から話しておくから」
「……すみません」
「昨日の処置情報診て来るけどいいよな?」
「……はい」
「あんまり深く考えるな。明るいのがお前の持ち味だろ」

翌朝、出勤前にゲストルームに顔を出した潤。
顔に『不安だらけ』と書いてあるような彩葉を見て、溜息が漏れ出す。

「葵が身の回りの世話してくれるから、何も考えずに寝てろ、いいな?」
「……はい」
「出来るだけ早く帰って来るから」

彩葉の頭をポンポンと軽く撫でて、潤は部屋を後にした。

郁さんから『なるべく早くに帰るから』と連絡があったきり、やり取りをしていない。
一方的に『緊急なオペが入った』と連絡したけど、それ以外は何もメッセージを残していない。
電話をかけても留守電に切り替わるし、メッセージを入れる前に倒れてしまったから。

酒井さんから聞いた『専務への話が延期になりそう』というのも気にかかるが、二週間以内に株価のリカバリーを強いられているという事実を知ってしまった彩葉は、それも気がかりで不安に陥っていた。

ベッドサイドに自分のバッグが置かれている。
その中に手を差し込めばスマホが取れるのは分かっているのに、それが出来ずにいる。

だって、スマホを手にしてしまえば、彼に弱音を吐いてしまいそうで。
今でさえ大変な時なのに、余計な気を遣わせたくない。

『このまま放っておけば、手遅れになる』

久我医師の言葉が突き刺さる。
お互いに医師だからこそ、遠回しな言い方はしない。
それだけに、今自分が置かれている状況は、かなり深刻だと否応なく突き付けられている。

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