サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



「酒井」
「はい、本部長」
「服、おかしくないか?」
「……完璧です」
「フッ」

十六時まで通常業務をこなした財前は、十八時から会見を予定している都内の有名ホテルへと向かった。

毎日見ている景色なのに、車窓から見える景色がいつもと違って見える。
この感覚、覚えがある。
四年ほど前に彼女を手放した時だったか……。

当たり前のように過ごしていた日常が、気持ちひとつでガラリと変わってしまうほど。

同じ眼で見ている景色なのに。
同じ人物が見ているというのに。
何てことないどこにでもある景色なのに。
こんなにも胸が締め付けられる思いに駆られるのは……。

「はい。……ん、―――…ん、了解」

運転している酒井はBluetoothの通話を切り、ルームミラー越しに財前にアイコンタクトを取る。

「本部長」
「ん」
「関係各所へ、十六時半に一斉通達完了し、先程、和久井さんがご到着されたそうです」
「……ん」

十八時からの『婚約会見』を行うと一斉通達を手配しておいた酒井。
その完了報告と共に、事前に知らせておいた『和久井 沙雪』が会場入りした報告も受けた。

直前だと、報道陣がホテル周辺を取り囲んで会場入り出来なくなることを予想し、一斉通達をする時間に会場入りさせたのだ。

財前を乗せた高級セダン車は、事前にホテルの裏口にバリケードのようなセキュリティボードを設置するように手配済みで、報道陣に取り囲まれることなく、ホテルの内部へと到着した。

会見が行われるのは大広間の『鳳凰の間』。
千人以上が収容できる宴会場に、通達を受け取った各局、出版社などが次々に姿を現す。

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