サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
(うわぁ~、……本物だぁ)
(あの服、SHELLEYの新作じゃない?)
(あっ、そうかも!一昨日雑誌で見たのと同じだっ)
(華がある人が着ると、映えるわねぇ)
(ほ~んとっ)
婚約記者会見が行われる都内の高級ホテルに十六時半過ぎに到着した和久井 沙雪。
今話題のブランドの服を身に纏い、サングラス姿で現れた。
財前家の警備担当のスタッフが配置されている中、堂々とした足取りで、ホテルスタッフに控室へと案内される。
厳戒態勢が敷かれるホテル内はいつもと違い、ピリピリとした雰囲気が漂う。
そんな中、ホテルスタッフの視線が、和久井へと一心に向けられている。
「こちらになります」
「ありがとう」
白地に赤い薔薇の刺繍が施されたAラインのロングワンピース。
細いひだが上品さを醸し出し、大きく開かれたVラインの胸元のダイヤが煌びやかに輝く。
案内された控室の椅子に腰を下ろし、バッグをテーブルの上にそっと置く。
「フゥ~~」
大きく息を吐きながら、サングラスを外した。
会見は十八時から。
まだ一時間半もある。
財前の秘書から『当日は報道陣が多く集まる予定なので、会場入りがしやすい十六時半にホテルへ』との連絡があった。
「失礼します」
控室に現れたのは、アイス珈琲を手にしたスタッフ。
グラスをテーブルの上に置くと、踵を返して部屋を後にした。
再び訪れる静寂。
和久井は手持無沙汰で、室内をキョロキョロと見回す。
自分から持ち掛けた話だが、事が大きくなりすぎてしまったようで、緊張に襲われる。
ちょっとだけ新聞社にでも情報提供して新聞の芸能一面を飾る程度にしか考えていなかった和久井は、財前の『婚約会見』という言葉にすっかり怖気づいてしまっていた。