サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

「和久井様、ご案内致します」
「はい」

控室に呼びに来たのはホテルスタッフ。
誘導され控室を出ると、そこにはデジャヴとも思える黒いスーツを身に纏った男性がずらり。

通路に点在するように配置されているのか、視線が合わないのに異様なほど緊張が走る。

ニュースの本番よりも、オリンピックの中継よりも、衆議院選挙の速報生中継よりも緊張する。
数歩前を歩くホテルスタッフの背中に視点を固定して、意識を集中させながら必死に冷静さを保つように心掛けて。

「こちらになります」
「ありがとうございます。……財前さんは?」
「財前様は既に中でお待ちです」
「あ、……そうなんですね」
「和久井様は、入られてすぐ右側の場所にお立ち下さい」
「入ってすぐの右側ですね?」
「はい。そのように財前様より言付かっております」

深々と一礼したホテルスタッフは、重厚感のある扉のドアノブをゆっくりと引いた。

開かれたドアの隙間から無数の光が漏れて来る。
見慣れているフラッシュライトのはなずなのに、いつもとは違う雰囲気に一瞬呑まれそうになった。

「お入り下さい」
「あ、はいっ」

眩しすぎるライトの中に埋もれるように、開かれたドアの奥へと進んだ、次の瞬間。
視界に捉えたのは、雛壇に一人座る彼。
氷視のような刃を持ち、獲物を狙う獰猛さを兼ね備え、悪魔のような狂気の沙汰を滲ませた瞳で。

恐怖のあまり無意識に後退りする。
体でドアを押し開けようとしても、びくともしない。

「っ……」

先程の黒づくめの男たちが外から押しているのだと、瞬時に脳裏を過った。

だって、『部屋に入ってすぐの右側』には、私が仕事でいつも立つ司会者席(あの場所)しかないのだから……。

< 158 / 182 >

この作品をシェア

pagetop