サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
*
「どういうこと??」
「……え?」
「彩葉ちゃん、……財前さん、一人で座ってるけど……」
「……そうみたいですね」
十八時を回り、会見場に現れたのは、郁さんと秘書の酒井さんだけ。
酒井さんは入口のドアの前に立ったまま、いつも通りの表情をしている。
無数のフラッシュを浴びる郁さんは、私の知っている彼ではない。
営業スマイル?
ううん、そんなのじゃない。
何だろう??
仕事中の厳しい顔つきでもなく、取材に応じる時の似非スマイルでもない。
プライベートの時の甘い表情でもなくて。
見たこともないほど温度の無い、そんな瞳をしている。
数分して会場に現れたのは、テロップにある『和久井 沙雪』アナウンサーだ。
けれど、何故かは分からないが、雛壇ではなく、脇にある司会者席に彼女は立った。
しかも、よくテレビで観るような流暢な司会ぶりで、会見開始の挨拶をこなす。
どうなってるの?
画面右下に表示されていたテロップが、開始一分で突然消えた。
葵さんと目を見合わせ、何が起きているのか分からずにいた、その時。
「質疑応答は設けておりません。ご質問等がございましたら、全日本スカイジェット航空広報窓口へお問い合わせ下さいますよう、お願い申し上げます。それでは皆様、約十分間の動画をご覧下さい」
予想を反して進められる会見。
会場内のどよめきがカメラ通じて手に取るように分かる。
前代未聞とも思える記者会見に、私も葵さんも動揺を隠しきれない。
「始まったっ」
「っ……」
葵さんの言葉で緊張がピークを迎えた。
私の手に葵さんの手が重なる。
私を心配して励ましてくれているようだ。