サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

【軌跡】と題されたスライドショーが優しいメロディーと共に流れ始めた。

羽田空港内の様子がただ流れているだけのようで、写真を繋ぎ合わせたストーリーのようなメモリーのようなもの。
現在の制服(ASJ)と違うから、懐かしいなぁだなんて思った、その時。

第三ターミナルの国内線乗り継ぎカウンター前で人だかりができている。

「あっ……」

この光景、覚えてる。
あの日だ。
仕事中だけど、初めて彼と会話した日だ。

ASJのスタッフに囲まれた女性は大きなお腹を大事そうに撫でながら床に横になり、スタッフに必死に頼み込んでる。
その妊婦に声を掛けるように近づく白衣を着た……私が。

手際よく処置している姿が、空港内のあちこちの角度から撮られた防犯カメラによって映し出されている。
懐かしいし、思い出の一ページに思わず涙腺が緩みだす。


急に画像の色合いが暗くなった。
とある夏の日の夜遅く。

幾つもの角度から撮られたものが上手く繋ぎ合わせられていて、まるでドラマや映画のワンシーンを観ているみたいに。

「わっ……、彩葉ちゃんと財前さんじゃない?」
「っ……」

第三ターミナルの展望デッキに初めて彼と行った時のものだ。
まだ恋人でも知人でもなくて、単なる同じ環境の職場にいる知り合い程度の関係。
歩行する距離も数歩離れていて、お互いに特別見つめ合うとかでもない。

夜風に靡く髪を押さえながら、私が彼に話し掛けてる様子が流れた。
音声は無い。
防犯カメラだから、画像だけ。
それが、ほんの少し寂しく思いながら、有難くも思えた。

だって、これ……全国放送だし、しかも生中継なんだよね?!

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