サイコな機長の偏愛生活

「十八時」
「十八時?……それなら会計の時ですかね?MR検査室に夕方呼ばれたので」

不思議そうに小首を傾げる彩葉。

彼女はただ単に何時頃にすれ違ったのだろう?と気になっているだけ。
実際はすれ違っているわけでなく、視界の先にあったエレベーターで上がる姿を見ただけ。
しかも、彼女は壁の方に体を向け腕組をしていた。

小さな密箱で男と二人きりでいたとしても、気にも留めない様子で。

状況からして、当然あるべき行動なのも理解出来る。
指導医として、常に行動を共にして。
後輩や弟子とした感じで親身になって面倒みてしまうのも、彼女の性格なら予想もつく。

けれど、隣りにいた男性医師の視線というか、姿勢というか、態度というか。
彼女の背中部分に当たる、ガラス張りの窓部分にある手摺りに手を乗せ、身を乗り出すように話し掛けている素振りだったから。

彩葉を口説いているのではなくても、少なからず女性としての好意はあるはずだろうから。

若い頃のように嫉妬心に駆られて、子供じみた行動で恋人に迫るような真似は出来ない。
それこそ二十代までなら、嫉妬することが愛情だと勘違いしていた。

だが、三十五歳にもなれば、それなりに多くを経験して来た。
嫉妬しなくても、幾らだって愛情表現出来る。

操縦士としてCBを最小限のアクションで回避するのと一緒で、思わぬ敵が出現しても、クールにやり過ごす術を身に付けている。

「明日も仕事だから、そろそろ寝るぞ」
「えっ……」

サイドテーブルのライトを常夜灯に落とし、瞼を閉じた。

午前零時を過ぎたばかり。
六時に起床するとはいえ、こんな風に恋人とゆっくり出来る夜は珍しい。
だから、本当ならもっと語り合いながら愛を深め合うべきなんだろうけど。

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