恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
それは瞬きするよりも短い間。
「......すまない。何の用だ」
はっとして、するりするりとさっきの異様な空気は去って。
いつものような気配のなさを取り戻したようだった。
「こここ、これ...」
「ん?」
気圧されるように、ひれ伏すように、手紙を渡した。
手紙を受け取って、目の前の男は私が立つよう手を差し伸べてくれた。
至っていつも通り。
でもさっきの今では同じ存在だとはとても信じられなくて、何か違って見えてくる。
「郵便が、届いて、それで...」
沈黙が怖くて早口になる。
イヴァンは翡翠色の瞳を封筒に向け、そして再び私を見た。
──どんな目だったか?
そんなの覚えていない。
本当に何もかもを映してしまう、透き通るような瞳だから。
「アンナ、結婚しよう」
「...え、は?」
「結婚しよう」
「は、......なんで」