恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
部屋に置かれた家具は、この壁紙とは不揃いだな、と何となく思う。
建物自体はカントリー風の貴族の屋敷、といった様子だが、今いる客間と思わしき空間に置かれたテーブルやソファのはまちまちなものだった。
それらを配置したであろう彼は、今私の前のソファで腕を組み、目を閉じて何かを考え込んでいる。
なぜ屋内に入れてくれたのかは分からないが、とりあえず余計なことはしない方が良いと思い、大人しく “判決” を待っている。
「小娘、名前は?」
目を閉じたまま顔を僅かに上げる。
黒髪が揺れる。
こうしてみると、彼の顔は一寸の狂いもなく整っている。
慣れない異国語は聞くのも話すのも、思っていたより難しい。
頭の中で文章を組み立てながら口を動かす。
「アンナ・ジェラシヴリといいます。アヴィヌラ国から来ました」
「これについて説明しろ。なぜ、致死量きっかりの麻薬をお前が持っているのか」