恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
5. 白に秘める
「おはよう!今日は、いや今日も!いい朝ね!」
「早いな、起きるのが」
「ええ、久しぶりにこんなに暖かいのに、寝てるなんてもったいないもの!」
「そうか」
しっとりとした朝露の中、鼻歌を歌いながら洗濯物を取り込んでいると、黒い服を纏った黒髪の背高がすん、と現れる。
ここに来てから、静けさと空の色に目を向けるようになった。
賑やかな中でのお喋りが好きでも、1人でいるのもすごく楽しいってことに自分なりに気づいたし、でもやっぱりずっと一人なのも嫌だってこともわかった。
もう一人時たま現れるくらいが、一番心地良いのだ。
慣れない“自由”も、ようやく板についてきた。
1度大きな伸びをしたあと、ぶるりと体を震わせた男を見て、アンナは、弱っちいなぁ、とそっと笑う。
この程度の寒さなら、アンナにとってはどうってことない。
アヴィヌラ国は東の国境に山脈がある影響で冷たい風が吹き下ろし、ここよりずっとずっと寒い。
住んでいた環境が違っただけだから愉快に思う。
1歩引いて世界を観ている人でも、寒さには弱いということが。
「その歌は何ていうんだ」
「あれ。そんなに上手かった?」
「ああ、下手だった」
褒められるかと思い、にやっと笑ってみせたが、華麗にスルー。
ま、気持ちよく歌えたから別に気にしないもんね。
───ちょうど手元にあった羊毛のガウンを取り上げ、乾いているか確認。
肌触りの良い生地。
使い古した深緑のガウンをよっ、と彼の方へ投げると、形のいい目が細められる。