恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
「ところで、お嬢さんどこから来たの、ここらじゃねぇで」
「あ、えっと」
「いや、王都からだいな、訛りがねぇから」
「あ...、は、はいっ、そうです......はは...」
いや、言えるわけない。
言えるわけないでしょ国外逃亡だなんて...
苦笑いで済ませ、「腸をきれいにするお薬作って下さい」とイヴァンに宛てた走り書きのメモをおじさんに手渡すと、今度は目尻に皺を寄せて優しく微笑まれる。
「助かるよ、お嬢さん。最近は、お医者様を呼ぶのさえ難しいほど貧しいんだ、この辺境の村は。それで医者は次々と去って行ってね。全く、貴族がえばるばかりで平民には生きづらい世の中になったもんだよ、この国は」
「え......」
「あぁ...愚痴ですまんな。結局は仕方ないんさ、新入りのお嬢ちゃん。俺達はここで生まれてここで死んでいく。...近所もみんな、この腹痛でな。幼子は一人死んじまった」
「貴族が、威張るばかり、…」
「悪いね、こんな話。でも同じ土地で生きて死ねるだけ幸せなんだ。どんなに貧しくても、生まれた場所で死ねるってのはありがたいことなのさ」
「...っ......」
もう一度「ありがとう」とメモをひらりと振って、使い古したシャツに上着を着たおじさんは、出ていった。
返す言葉が何も、見つからなかった。
怒りのような、悲しみのような、無力感というか。
言葉にできない、ならない大きな感情は小さな透明の雫となって一筋、頬を伝った。