恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
動植物と海洋生物の図鑑、よくわからない鉱物の解説書、そして───『古代からの魔法薬学・体系と実験』
「お気に入りだけど、」
よいしょと、うまく話せないけど、でも誰より強い心が瞳から見え隠れしていた。
少女は喪服とは程遠い、麻の白いドレスを着ていた。
白い髪に、白い肌に、白い服。
どこからかやってきた妖精のようだった。
「まほうつかいが使ったら、もっといいと思う」
ぴょんとはねたおさげが揺れる。
「あげる」
「俺に?」
「うんっ、本もよろこぶ」
「...ありがとう」
ばいばい、と手を振って駆け出した少女は、また走って戻ってくる。
はぁ、はぁと荒い息で、開きかけていた本を指す。
「やっぱだめ!これだめだったっ、かえして!おとうさまにこっそりかりた本なの。ごめんなさい!」
大慌てで本をひったくり、袋に詰め、タタタッと再び駆けて行った。