恋の魔法なんて必要ない!~厭世家な魔術師と国外逃亡した私の恋模様~
「あれは、父上の葬式の時だった」
「そうだったの、」
こちらを不安げに見つめる瞳は、変わっていないようで。
でもちゃんと、大人の眼に変わっていた。
少女が引っ張り出してきた古びた魔術書の表紙をなぞる。
確かにあの時のものかと訊かれると、覚えていないというのが正直だ。
でも本を貰いかけたことも、このアヴィヌラの飾り文字も記憶の通りのものだ。
「...あの書室は、使う者の心から望んだ本を並べてくれる」
「あ、だから最近は消化器系の図説ばっかり...」
「俺が見る時と、お前が行った時、並ぶ本は全く違うだろうな」
「ふふ、そうね」
目の奥に光るあの輝きは、あの時と同じ。
あの部屋がこの本を並べたということは、そういうことだ。
彼女が思い出したいと願ったのだろう、きっと自分でも気づかないうちに。
まさかとは思った。
白い肌と白い髪。
瞳の光にもっともっと早く気づくべきだった。
でも来た時の話を聞く限り都の貴族のようだったから記憶と結びつかなかった───今は平民だと、本人は言い張っていたが。