鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 これまでには想像することもなかったあの人の無様な様子を目に映しても、オデットの心には何の感情も湧くことはなかった。今までに抱いていた恐れも、これから多くの罪を暴かれるであろう彼への哀れみも何もなかった。

 オデットを世界中で連れ回し荒稼ぎしていたあの人は、手に入れたお金で悪どい事を企んでいた。話を聞かれていても、どうせ何も出来やしないと思っていたのだろう。あの飛行船の中にも、盗みや騙しなどの犯罪の証拠はいくつも残されているはずだった。

(私の証言が、あってもなくても……彼はもう、破滅するのね……もう……私を所有することもない)

 現在オデットの所有権を持っていることとなっている彼は、もう表舞台に出る事はない。一度落ちぶれた人間に、手を差し出す人間は皆無だろう。

 自分を縛るものからの清々しい解放感とどことない郷愁を感じていたオデットは、キースが広場で待機していたアイザックと何か相談しているのを待っていた。

< 83 / 272 >

この作品をシェア

pagetop