だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「君じゃないとだめなんだ」

 右腕を掴まれ、彼の方を向かされる。出会ったときから、ずっと落ち着き払っている久弥さんの初めて見る余裕のない表情だった。

「お母さんの病状、手術をしないとよくならないんだって?」

 逆に私は彼の突いてきた内容にあからさまに顔をしかめる。そこまで話した覚えはないのに、なぜ知っているのか。考えるまでもない、事前に調べたのだろう。

 母は心臓に疾患を抱えていて、定期的な健診と薬でなんとかやり過ごしているが、本当は手術するのが一番だと昔から言われている。発作によっては命を落とす可能性だってないわけじゃないからだ。

 今までに何度も手術を母に勧めたが、母は決して首を縦に振らなかった。手術は特殊なものらしく、できる病院も医師も限られている。手術となれば長期入院になる見込みで、そう簡単にはできない。

 しかし理由はそれだけじゃない、金銭面の問題だ。

「手術できるだけの金額は支払う。そのあとのリハビリを含め、当面の生活に不自由はさせない」

 我が家の事情をわかったうえで提案してきた久弥さんに、逆に私の心は頑なになる。

「そう言えば……私が言うことを聞くと思っているんですか?」

「そうだ。この提案を君は受けるべきなんだ」

 間を空けずに迷いなく言い切られ、思わず噛みつく。

「馬鹿にしないでください! お金のために結婚なんてできません」

 もうこれ以上は聞いていられないと切り捨てようとしたが、久弥さんは真面目な面持ちを崩さない。彼の手を振りほどこうにも、腕は掴まれたままだった。
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