だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「嫌な気持ちどころか、逆に求めてもらえるように努力するよ」

 余裕たっぷりに宣言されたが聞き捨てならない。

「そ、そこまでする必要はないと思うのですが?」

 あからさまに動揺しているのが声にも表れた。さっき言っていた内容と矛盾している気がするのは私だけだろうか。この結婚は期間限定の仮初めのものなのに。

「祖母はああ見えて敏いからな」

 久弥さんの切り返しに、目を見張る。そうだ。彼の私に対する態度はすべて、光子さんを納得させるためなんだ。

 わかりきっているのに、なぜかかすかに傷ついた自分がいる。

 なんで?

 相変わらず私の頭に触れている彼から思いっきり顔を背けた。

「わかりました、努力します。とはいえ結婚しても無理に接触しなくていいと思います」

「無理はしていない。どんな形であれ結婚したら俺たちは夫婦だ。少なくとも俺は触れるのが嫌な相手とは結婚しない」

 凛とした低く通る声はいつも迷いがない。私もです、と答えそうになったのをすんでのところでやめた。勘違いしては、させてはいけないから。

 気を取り直して今後の話を進めていく。

 思い描いていた結婚とはほど遠いけれど、恋人どころか好きな人さえいない私は、久弥さんに告げた願望を叶えられる見込みは今のところまったくない。

 ならば形だけの期間限定の結婚生活でも、できるかぎりはよりよいものにしたい。

 そう思えるのはきっと久弥さんのおかげだ。
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