だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「つけていくところがないだろ」

 すげない久弥さんに、思わず唇を尖らせる。

「久弥さん、女心がわかっていませんね。お洒落は自分のためにしたいものなんですよ」

 長い髪を束ねたり、お見舞いに誰かが来た際など使う機会はあるはずだ。

 簡単に説明して、レジへ持っていく。

 母にも光子さんにも、長期的な入院生活に少しでも明るさを添えたい。

 会計を済ませ包装をしてもらい、店の外で待っている久弥さんのもとへ急いだ。

「お待たせしました」

「瑠衣はなにか欲しいものはないのか?」

 突然切り出され、目を瞬かせる。

「私?」

「そう。今も自分にはなにも買わなかっただろう? 人には聞いておいて、瑠衣はどうなのかと」

 なるほど。久弥さんの気遣いに心が温かくなった。私のことも気にかけてくれているんだ。

「久弥さんの気持ちがわかりました。この質問、なかなか難しいですね」

 しばし考えを巡らせたがぱっとは浮かばない。

 少し前の私ならお金と思っていたかな。母の手術費用をずっとなんとかしたいと思っていたから。

 それを除いては、ピンとこない。あまり物欲はない方だ。服もアクセサリーも化粧品も必要最低限でいい。これは育ってきた家庭環境も大きいのかもしれない。

 あるものに感謝して幸せを感じられる。とはいえ諦めたものも多かった。

 欲しいもの、か。

「子どもの頃はお父さんって言ってよく母を困らせました」

 冗談めいて答えたのに、久弥さんの顔が一瞬強張り、しまったと思った。
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