だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「あの、あくまでも子どもの頃ですよ! 今は父親に対して恋しさどころかなんの感情もありません」

 慌ててフォローし、勢い任せに補足していく。

「その代わり、いつか自分に子どもができたら家族で楽しい思い出をいっぱい作るんです。動物園とか水族館とか……公園でも。たくさん出かけて、たまにケンカをしても笑顔の絶えない家庭を築く。自分が得られなかったものを違う形で叶えたいなって」

 両親が揃っていて、幸せそうな家庭がある同級生が羨ましかった。家族でのお出かけに憧れて、母に無理を言った。なんでお父さんはいないのかと困らせて、泣かせた記憶もある。

 でも、ないものを嘆いても、手に入らないものを持っている相手を妬んでも、現実は変わらない。

「……って、自分の話ばかりすみません。それにこれって欲しいものというより夢ですよね」

 我に返って苦笑する。久弥さんもこんな話をされるとは思ってもみなかっただろう。

 こんな重い話題を口にしてどうするの。ましてやデート中に。

 後悔の渦に呑み込まれそうになったとき、ふと久弥さんの手が頭の上にのせられた。

「聞けてよかった。話してくれてありがとう」

 まさかそんな言葉が返ってくるとは想定外もいいところだ。目の奥がじんわり熱くなり、懸命に自分を奮い立たせる。

 そこで、まだ彼に話していない過去があると思い至る。このタイミングで話すべきかと思慮を巡らせたが思いとどまった。べつに無理に伝える必要はない。
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