だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「行きましょうか」

 久弥さんを促しながら左手を差し出し、はっと気づいて慌てて引っ込めようとする。ついさっきまでの流れでやってしまったが、手を繫いだのはただの成り行きだ。ところが、うしろに回す前に久弥さんに手を取られる。

「他になにか見たいものは?」

 優しく尋ねられ、伝わる温もりも合わさり、手を繋ぐのを受け入れた。

「コーヒー豆、そろそろなくなりそうなので買いたいです」

「わかった。だったら一階だな」

 あ、今のやりとり夫婦みたい。

 結婚してから、私とは違って久弥さんの左手の薬指には常にきちんと指輪がはめられている。今日は私も指輪をつけていた。結婚指輪なんだから当然だが、おそろいなのがくすぐったい。

 買い物を済ませた後、久弥さんの車で母の病院に寄った。午後四時を過ぎたあたりから、辺りは徐々に暗くなり、乾燥している空気が喉に染みる。

 母はリハビリを順調にこなして回復に向かっているらしく、表情も生き生きとしてきた。さっそく買ったばかりのバレッタを渡すと、母は喜びながら、私が子どもの頃に誕生日や母の日にどんなプレゼントをしてきたのかを懐かしそうに語りだした。

 私としては忘れたくなるような恥ずかしいエピソードもあり、久弥さんに話される前に慌てて制す。

「昔から優しい瑠衣に甘えて、たくさん寂しい思いや我慢もさせたわね。でも久弥さんと結婚して幸せそうでよかった」

 そうやって総括する母に胸が軋む。けれど、たしかにこの結婚は期間限定の割り切ったものだが、私が今幸せなのは事実だ。それが久弥さんのおかげなのは間違いない。
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