だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 慌てだす私の頭に久弥さんの手がのせられた。

「瑠衣は――」

「久弥」

 言いかけた久弥さんの言葉に第三者の声がかぶさる。そちらを向くと、白髪交じりの髪を短く刈り上げ、眼鏡をかけたスーツ姿の男性が険しい顔でこちらに近づいてくる。

 彼には見覚えがあった。直接ではなく、TOGAコーポレーションのホームページをチェックした際に目にした、現社長である十河久光さんだ。

「お久しぶりです」

 久弥さんが軽く挨拶するが、十河社長の表情は変わらない。

「来ていたのか。急に結婚なんてどうした? 会長に結婚したら会社の後継者について考えるとでも言われたのか?」

 あまりにも不躾な物言いに、どう自己紹介しようかと悩んでいた考えが吹き飛ぶ。会長とは光子さんを指すのだろうが、実の母親でもここでは役職呼びなのかとわずかに驚く。久弥さんにとっても祖母にあたるのに。

 しかし久弥さんは平静そのものだ。

「会社を継ぐのは久志でしょう」

「何度も病院に行くのも会長に取り入るためなんだろう? 彼女も会長のお気に入りみたいじゃないか」

 そこで十河社長の視線がこちらに向き、慌てて頭を下げた。

「初めまして、ご挨拶が遅くなってしまってすみません。久弥さんと結婚いたしました、瑠衣と申します」

 まったく好意的な感情が寄せられていないのは伝わってくるが、それとこれとは別だ。
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