だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 十河社長は私を冷たく一瞥すると再び久弥さんを睨みつける。

「久志への代替わりを予定しているこのタイミングでわざわざ結婚とは。当てつけのつもりか?」

「そんなつもりはありませんよ。祖母の後押しが大きかったんです」

「結局は会長の言いなりか」

 どうして実の甥である久弥さんにここまで敵意をむき出しにするのか理解できない。ピリピリとした空気に息が詰まりそうだ。

 それを察したように久弥さんが私の肩を抱いて歩を進めるよう促す。

「なにを企んでいるのか知らないが、お前にTOGAコーポレーションは継がせない。両親のそろっていないやつが、ろくな人間になるわけがない」

 場を去ろうとしたら吐き捨てるように放たれ、私の中のなにかがぷつりと切れた。

「待ってください」

 久弥さんの腕を振り払い、虚を衝かれた顔をしている十河社長に向き直ってそのままの勢いで続ける。

「久弥さんは立派な方です。ご両親の有無は関係ありません」

「瑠衣」

 制するように名前を呼ばれ、口をつぐんだ。すると十河社長は薄ら笑いを浮かべた。

「ああ、失礼。あなたもたしか母子家庭でしたか。類は友を呼ぶとは本当らしい」

 ここまでストレートに侮蔑されたのは久しぶりだ。

「社長。俺はなにを言われてもかまいません。ですが妻に対しては別です。彼女を侮辱するなら許さない。次はありませんよ」

 低い声で言い切り、久弥さんは再び私の肩を抱いて歩き出す。今度はおとなしく彼に従い、私たちはその場を去った。
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