だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 駐車場で車に乗り込むまでどちらも無言だった。エンジンをかけるのと同時に、吹出口から車内を暖めようと強い風が音を立てて流れてくる。

「嫌な思いをさせたな」

 口火を切ったのは久弥さんで、私は無言で首を横に振った。乱れているこの感情をなんて口にすればいいのかわからない。

「伯父は自身はもちろん、息子の久志にTOGAコーポレーションを継がせたいんだ。けれど弟の息子である俺が社長だったじいさんのもとで育てられ、自分や息子の立場が脅かされるんじゃないかってずっと思っていたらしい」

 両親を亡くし、祖父母であり会社の実権を握っている久則さんと光子さんが久弥さんを引き取って育てる状況に、周囲は同情しながらも、自然と久弥さんが後継者となるのだろうと憶測することもあったようだ。

 とくに十河社長は焦りや嫉妬にも似た感情もあり、自分が社長となってからも久弥さんに対する態度は変わらないらしい。

 もう今さらどうにもならないだろうと、久弥さんは苦笑しながら説明していく。

 ただ従弟の久志さんとは、この前会った通り仲はいいらしい。そういった事情を久弥さんから聞かされ、マンションに戻ってきた。

 今朝この家を出たときとは一転し、気持ちは沈んでいる。

「今後、瑠衣が伯父と関わる必要はないように配慮する。今日は巻き込んで悪かった」

 リビングに入ったタイミングで申し訳なさそうに彼から告げられ、こらえていたなにかがあふれ出す。
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