眼球を舐めたい
「羽柴。俺を見て。その漆黒のような瞳で、俺を見て」

 羽柴。閉じた瞼に熱く濡れた息がかかる。何度羽柴と呼ばれても、甘い言葉で口説かれても、目を開けるつもりはなかった。開けたら終わりだ。舐められる。俺のごく普通の眼球に対し、そんな変態な欲望を隠し持っていた高槻の舌で、舐められる。

 ああ、なんだ、そうか。高槻は、イケメンの皮を被ったただの変態だったのか。クールなふりして、異常な性癖を持った変態男だったのか。

 自分が理想とする眼球を舐めたいという欲求を、彼は常日頃から内に秘めて息をしているのだろう。悟られないよう秘めるということはつまり、周りには知られたくないということだ。それならば、悪い話、脅迫してしまえばいいと思った。そうすれば、この危機を打開できると思った。絶対に眼球を舐められたくはない。

「た、高槻、今すぐ……、今すぐ解放してくれないと……、高槻の、異常性癖を、全校生徒に暴露するからな」

「羽柴」

 言い終わらないうちに、俺の語尾に被さるように、高槻の声が鼓膜を揺さぶった。彼の吐息が、腰を震わせる。背中をゾクゾクとさせる。

 耳元だった。耳元で、高槻の声がした。は、と驚愕によって息が漏れ、目が開いてしまいそうになったが、すんでのところで耐え忍ぶ。危なかった。そう、危なかったのだ。

 鼓膜に向かって囁かれただけ、それだけで意識を持っていかれそうになったのに、俺の脅迫をやっぱり聞いていない高槻は、何を思ったのか、まるで責め立てるように俺の耳殻を舌で濡らし始めた。またもや反射で両目が開きそうになった上に、意表を突かれた自分の口から喘ぐような声が漏れ出てしまった。信じられなかった。
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