新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜
「そ、それは……その……」
「ん?」
下を向きながら包帯を巻いていた手を止め、高橋さんは少し上目遣いに私を見た。
ああ……。
何だか、凄くセクシーというか、ある意味妖艶で、サディスティックな笑みを浮かべているようにも見える。
「昨日……。ちょっと、ソファーで寝ちゃってまして……」
もう此処まで来たら誤魔化しは効かないので、仕方なく正直に白状することにした。
「フッ……」
高橋さんは、また下を向いて包帯を巻く手を動かし始めた。
「ヨシ! なかなか俺にしては、上出来だな」
そんなご満悦な顔をしながら、高橋さんが私の左足首に巻かれた包帯の仕上がり具合を 見ている。
「すみません。ありがとうございました」
高橋さんの膝の上に両足をのせてしまっていて、とんだ格好だったがお礼を言った。
「それで?」
「えっ?」
「だから、ソファーで寝ちゃってどうしたんだ?」
ま、まだ続いていたんですか。その話……。
「座ったまま横になってしまったので、床に両足をつけたままで……。それで浮腫んじゃったみたいなんです」
「・・・・・・」
エッ・・・・・・。
何も言わずに高橋さんが立ち上がり、湿布剤をテーブルの上に置いてハサミを所定の位置に戻しに行くと、またソファーに戻って来た。
高橋さんの行動を目で追っていた私は、慌てて視線を逸らして先ほど高橋さんに両足を持たれた弾みで床に落としてしまっていた、着替えの入った袋を拾うふりをした。
また高橋さんが私の隣に座り、飲みかけだった缶ビールを飲み始めたが、元々、残り少なかったのか一気に飲み干すと、バリバリと缶を潰し始めた。
しかし、その間まったく会話はなかったが、先ほど高橋さんが言った 『お楽しみは、こ・れ・か・ら』 という言葉が気になって、気になって仕方がない。
それもあって、何か言われるんじゃないかと、ハラハラ、ドキドキしながら高橋さんの行動を見つつ、緊張している。
もう、何だか意識し過ぎだ、私……。
高橋さんは常識人だし、仮にも私は今、足を怪我しているわけだし……。絶対、そんなこと……ないよね?
あっ……。
ふと、前にまゆみが言っていたことを思い出した。
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