新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜
このベッド、普通のベッドじゃない。
うわっ。
高橋さんが横に座りながら私の肩を掴むと、そのまま一緒に倒れるようにベッドに横になってしまった。
も、もう、どうしたら……。
このベッドは、きっとウォーターベッドだ。
ベッドに倒されて思わず目を瞑ってしまい、慌てて起きようとして目を開けると、目の前に度アップの高橋さんの顔が迫っていた。
ち、近い! 近過ぎですって、高橋さん。
「フッ……。お前があんまり暴れるから、俺まで巻き添え食っただろ」
高橋さん……。
優しい眼差しの高橋さんの息遣いが手に取るようにわかり、ジッと息を潜めた。
高橋さんの右手は、先ほど倒された時から身動きとれないように私の右肩を掴んでいる。
すると、スッと高橋さんの左手が横から伸びてきて視界に入ると、高橋さんの左手が優しく顎のラインから徐々に内側へと滑らすように私の右頬を包み込んだ。
どうしよう……。私……高橋さんと、このまま……。
些細なことに、敏感に過剰なまでに反応してしまう。
「お前……震えてる」
怖さと緊張が重なって体が微かに震えている私の身体を挟み込むように、高橋さんが両肩の上に両手を突き、ジッと真上から私を見つめている。
高橋さん……。
金縛りにあったように硬直した体で、その瞳から視線を逸らせずにいると、高橋さんが右手に力を入れたのか、ウォーターベッドの私の頭の辺りが大きく揺れながら沈んだ。
そして、高橋さんがベッドの脇にある棚の上から何かを手に掴んで操作をすると、またそれを元の場所に戻した。
エッ……。
何?
部屋の明かりが消えて真っ暗になったと思ったら、視界は闇に包まれてしまい、いつの間にか気付くと高橋さんの両手が私の両肩を挟むように突いていた。
暗闇の中で、真上にある高橋さんの顔がぼんやりと見え、表情こそ窺い知ることが出来ないが、かなり自分の置かれた今の状況から、何とかして高橋さんから逃れようとして顔を逸らそうとするがままならない。
私……このまま、高橋さんと? でも……。
そんな私の気持ちを察してか、思い過ごしだったのか。直ぐに高橋さんは起き上がって、ベッドの縁に座った。
勝手なもので、あれほど早く逃れたいと思っていたのに、いざ高橋さんが離れてしまうと、現実に引き戻されたようで寂しさを隠せない。何とも、傲慢な自分の感情が浮き彫りになって恥ずかしくなった。
私は、いったい高橋さんにどうして欲しいんだろう?
自分の気持ちの不安定さに戸惑っていると、高橋さんが私の髪に触れ、乱れてしまった髪をそっと耳の方へとかき分けてくれている。高橋さんの行動をされるがまま受け入れ、間近に迫っている高橋さんの表情を少しだけ暗闇に慣れてきた目で見つめた。
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