暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「早速だけど行こうか」
「はい」

私は緊張しながら廊下を進む課長の後について歩いた。
廊下に敷き詰められた絨毯が足音も吸収してくれて静かな社内は、どの部屋も重厚な扉が閉められていて人の気配さえ感じない。
時折すれ違うスーツ姿の女性はみんな私と同じくらいの年恰好だけれど、見た目は正反対。
細くて筋肉質で切れ長な目元をした中性的な私は、沖縄でしっかり焼けたきつね色の肌でお化粧もうっすら。それに対して真っ白な肌にぱっちり二重の女性たちは柔らかくて優しい印象で、もう別の人種にすら見える。
それに着ているスーツもきれいな春色で、ファッション誌から抜け出してきたようだ。

「ここが副社長室だ」
「はい」

最上階フロアのさらに奥、廊下を何度もまがった先にあったひときわ大きな扉。
そこには金色のプレートがかかっていて、『副社長室』と書かれていた。

「隣が副社長専属秘書の執務室で、そちらからも副社長室に入れるようになっているから。普段はそちらから出入りしてもらうといいよ」
「はい」

言われてみれば、廊下の先に少し小さなドア。
なるほど秘書はそこから出入りできるってことらしい。

トントン。
ガチャッ。
「失礼します」
返事を待つことなく、『副社長室』と書かれた扉から課長が入って行く。

「失礼します」
私も扉の前で一礼してから、副社長室へ足を踏み入れた。
< 10 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop