暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「なぜ私なんですか?」
しばらく考えてみたけれど、どうしてもその答えが見つからず、口に出して尋ねてみた。

「君の元気で明るい性格にかけてみたいって感じかな?」
「意味が分かりません」

要は、変わり者でクセがある副社長を私に押し付けようって魂胆。
よほど私が強そうに見えたのか、能天気に見えたのか、もしくは体のいい厄介払いなのか理由はわからないけれど評価されての配属でないのは確かだ。

「実は、会長からもぜひ君をと押されていてね。申し訳ないけれど承諾してほしい」
そう言って表情を曇らせる谷口課長。

「そんなに変わった方なんですか?」
大変失礼だとは思いながら聞かずにはいられなかった。

「いや、仕事はできるし、見た目だって悪くない。ただあまり周りとの調和を求めようとしないから傍若無人に見えるのかもしれないね」

それって、すごく変わり者ってことよね。
この時、私の中のイメージは50代くらいで恰幅が良いカバみたいなおじさん。
若くて綺麗な女の子には鼻の下が伸びて仕事にならないから、私が選ばれたのだろうと勝手に解釈した。
でも、まぁいいでしょう。沖縄のツアーガイド時代だって品の悪いおじさん達を何人も相手にしてきたんだから、今更少々のことでは驚かない。

「分りました。どこまでできるか分かりませんが、精一杯務めさせていただきます」
「ありがとう」

満面の笑顔でお礼を言う谷口課長の反応が少しオーバーな気がして不安になったけれど、東京に帰ってきた以上、今の私にはここしか勤め先は無い。
父さんや重さんのためにも頑張ろうと心に決めた。
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