薙野清香の【平安・現世】回顧録
***
『どうしてそう、無茶をする?』
遠くから誰かの声が響いた。懐かしい声だ。
額に触れる冷たい手のひらが心地よい。そっと目を開けると、そこには憮然とした表情の崇臣がいて、清香を見下ろしていた。
(いや、違う)
きっちりと気つけられた直衣に、今とは趣の異なる香り。これは、崇臣であって崇臣ではない。前世の――中将だったころの崇臣だ。
『無茶などしていないわ』
清香は弱弱しい声でそう言い返した。
清香たち女房は、年がら年中正装をしているわけではに。梅雨のジメジメとした湿気と暑さの中で、十二単を着るのは酷だからだ。
けれど、そんな悪気候が、よりによって大事な宮中行事の日に重なった。
ダラダラと流れ落ちる汗に激しい頭痛、猛烈な眩暈に襲われながらも、宴の最中に席を辞すことはできず。終宴を迎えると同時に、清香は急いで自分の局へと下がったのだ。
『どうしてそう、無茶をする?』
遠くから誰かの声が響いた。懐かしい声だ。
額に触れる冷たい手のひらが心地よい。そっと目を開けると、そこには憮然とした表情の崇臣がいて、清香を見下ろしていた。
(いや、違う)
きっちりと気つけられた直衣に、今とは趣の異なる香り。これは、崇臣であって崇臣ではない。前世の――中将だったころの崇臣だ。
『無茶などしていないわ』
清香は弱弱しい声でそう言い返した。
清香たち女房は、年がら年中正装をしているわけではに。梅雨のジメジメとした湿気と暑さの中で、十二単を着るのは酷だからだ。
けれど、そんな悪気候が、よりによって大事な宮中行事の日に重なった。
ダラダラと流れ落ちる汗に激しい頭痛、猛烈な眩暈に襲われながらも、宴の最中に席を辞すことはできず。終宴を迎えると同時に、清香は急いで自分の局へと下がったのだ。