薙野清香の【平安・現世】回顧録
***


「まだ悪いのか?」


 そんな声が清香の頭上で響いた。

 ボヤけていた視界が、段々とクリアになっていく。清香はゆっくりと瞳を開けた。
 目に映るのは、雲一つない青空。それから、涼し気な表情をした崇臣の姿だった。

 普段の崇臣は狩衣姿だ。平時ならば、前世の彼と今の彼との区別が付かなかったかもしれない。
 けれど今の崇臣は洋服姿で、今時の若者そのものだ。おかげで清香は、前世と現世をきちんと切り離すことが出来た。


「……大分、良くなったわ」


 小さな声で清香がそう呟く。


(ん?何だろ?)


 頭の下が妙に温かい。それに、休み始めたときはベンチに座っていたはずが、清香はいつの間にやらベンチに横になっていた。


(いや、違う)


 清香はゆっくりと辺りを見渡す。喧騒の反対側に見えるのは、硬いベンチの背ではない。洋服に身を包んだ、崇臣の腹だ。どうやら清香は、ベンチに腰掛けた崇臣の膝の上に、頭を預けているようだった。


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