薙野清香の【平安・現世】回顧録
「なっ……何よ!」

「見惚れてただろう、今」


 崇臣は勝ち誇ったかのように目を細め、清香を見下ろしている。そんな二人を尻目に、東條と芹香はクスクス笑いながら、先に車へと乗り込んでいた。


「見惚れて……って、そんなわけないでしょう!」


 ツカツカと崇臣に詰め寄りながら、清香は唇を尖らせた。


(あっ)


 清香はビクリと身体を震わせながら、足を止めた。崇臣から漂うのは、普段、彼が狩衣に焚き染めている香りとは違う。どこか近寄りがたくオシャレな、大人の男の香りだった。


(騒ぐな、心臓!)


 ドキドキとうるさい心臓を押さえながら、清香は唇を噛んだ。崇臣は楽しそうに、クックッと笑う。清香の頬はほんのり紅く染まっていた。


「まぁ良い。主たちが待っている。行くぞ」


 崇臣は清香の頭にポンと手のひらを乗せると、車に乗るよう促した。まるで子供を揶揄うような、余裕しゃくしゃくな態度に清香は頬を膨らませる。


(なんか……ムカつく!)


 清香はギュッと目を瞑ると、芹香の隣の席へと乗り込むのだった。
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