薙野清香の【平安・現世】回顧録
「でも、芹香のことじゃなくて。俺、お姉さんとは、以前どこかでお会いしたことがある気がするんです。それがどこだったか、思い出せなくて……気になって」


 思いがけない東條の言葉に、清香の心臓がひと際大きく跳ねた。ゴクリと唾を呑み込みながら、清香は浅い呼吸を繰り返す。額にジワリと汗の玉が浮かび上がった。


(東條さま……もしかして、記憶が戻りかけている?いや、ただの勘違いということも)

「お姉さん?」


 東條が不思議そうに清香の顔を覗き込む。


(はっ……いけない!)


 清香は無理やり表情を引き締めると、東條へと向き直った。


「うーーーーん、東條さんみたいな素敵な人、会えば絶対覚えてるはずだからなぁ!きっと会ったことないんじゃないかなぁ」


 清香としては平静を装えたつもりだった。けれど実際は、声は震えていたし、表情は強張っていた。


(怪しまれただろうか?)


 しばらくの間、二人の間に沈黙が流れた。密かに怯えながら、清香は東條の反応を待つ。ドキドキと心臓は高鳴ったままだった。


(なっ、何か言ってほしい)


 沈黙に耐え兼ねた清香が、横目で東條をチラリと見遣ると、彼は至極穏やかに微笑んだ。


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