薙野清香の【平安・現世】回顧録
「ハハッ……ありがとうございます。お姉さんにも記憶がないなら、俺の勘違いなのかな。でも、そうですね……こうして出会えたのだから、それで良しとしましょう」


 東條はそう言って、熱っぽく清香を見つめながら笑った。本当に、一歩間違えたら口説かれていると勘違いしてもおかしくない。そんな視線だ。


「一応確認ですけど、それ、妹にも同じように言ったんですよね?」

「もちろん。芹香にも崇臣にも、同じように言いましたよ。出会えて嬉しいって」


 東條の言葉を聞いて、清香は思わず笑った。きっとこれは、東條のまごうことなき本心なのだろう。弧を描く唇をそのままに、清香はそっと目を閉じた。


『ここにいる皆に出会えて、私は嬉しい』


 そう口にするのは、東條と同じ声の尊きお方だ。
 遠い昔、芹香や崇臣等を集め、そう話していた東條――在りし日の帝の姿は、今も色あせることなく、清香の魂に刻まれている。


(本当、敵わないな)


 清香は薄っすらと目に溜まった涙を拭いながら、隣で笑う東條を見た。
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