薙野清香の【平安・現世】回顧録
「ごめんね、お姉ちゃん。てっきり知っているとばかり思ってた……」

(芹香……)


 清香が必死に首を横に振る。
 チラリと顔を上げると、清香を見下ろしながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべた紫の姿が目に映った。
 どうやら紫は、ジェットコースターの前評判を聞いていたらしい。順番待ちの途中で列から抜け出し、乗車を回避していたのだ。


「情けないわね!」


 ついに睨んでいるだけでは足りなくなったらしい。清香を嘲る様に笑いながら、紫が声を上げた。


(まったく、乗りもしなかった人間が、良く言うわ!)


 清香は唇を尖らせながら、心の中で紫を睨みつけた。
 すると、清香の目の前に、汗を掻いたペットボトルが差し出された。少しだけ顔を上げると、心配そうな表情を浮かべた暁がすぐ側に立っている。


「あの、これ……どうぞ」

「ありがとう、暁さん」


 清香は弱弱しい笑みを浮かべながらペットボトルを受け取ると、ベンチへと凭れ掛かった。


< 98 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop