ひと駅分の彼氏
だから余計に私はここに来ることができないでいたのだ。


すでに真琴はここで眠っているなんて、信じたくなかった。


「ちゃんと受け入れて、見てあげなよ」


優花里にそう言われても、私はできなかった。


だってまだ私は真琴にさよならも言えていない。


大好きだったよも、ありがとうも、言いたかったことをなにも言えていない。


それなのにどうやって真琴の死を受け入れろと言うんだろう。


私は乱暴に優花里の手を振り払って駆け出していた。


優花里が後ろから声をかけてきたけれど、返事もせずに家へと舞い戻る。


玄関の鍵を乱暴に開けて自室へ入ると、ようやく足を止めた。


一気に走ったせいで心臓がバクバクと音を立てている。


私はドアに背中をつけてそのままズルズルと座り込んでしまった。


「うぅ……ひっく……」


さっきからポケットの中でスマホがせわしなく震えている。


きっと優花里が電話をしてきているのだろう。


けれど私はそれに出ることもできずに、ただただ暗いトンネルの中にいて、1人で泣きじゃくっていたのだった。
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