一室の思い出と共に
憂鬱な筈だった一週間はすぐに終わった。そして、お見舞いの日。今日は、いつも休日より少し浮かれていいるのが自分でもわかる。母さんにもお見舞いに行くことは話していた。母さんも行きたがっていたが用事があり行けなかった。
昼過ぎに家を出て少し迷いながら病院へ到着した。ナースステーションで号室を言い場所を聞いた。またもや迷いながらもやっとのことでたどり着く。病室のネームプレートには広田 鈴人(ひろた すずと)と書かれていた。そうだ!思い出したヒロくんの本名だ!でもなんでヒロくんと呼び出したのかは全く覚えてない。このこともヒロくんに聞いてみよう。
少し緊張した面持ちで扉を開く。そこには、思った以上に元気そうなヒロくんがいた。病室は四人部屋であり、一番奥の窓部屋にヒロくんがいた。
「ゆづちゃん、こっち、こっち」
そういって手招きするヒロくんの元に少し早足でいく。隣にパイプ椅子を広げ座る。
「ごめんね、ヒロくん」
「え?何が?」
「お見舞い品買おうと思ったんだけどね、何がいいのかわかんなくなっちゃって買えなかった。」
きょとんとした顔をしていたヒロくんが安心した顔をする。
「えっ!全然いいよ。何だそんなことか。俺は、会えて嬉しいよ。」
「そ、そう?今度、何か買ってくるね。お菓子とか大丈夫?」
「え、あ、うん。ゆづちゃん、ありがとね」
「まだ、なにもしてないけどどういたしまして。」
少し戸惑いながら返事をするヒロくんだがぽんぽんと会話のリレーが繋がっていくのは驚く。直接普通に話すのは幼い頃以外では初めてだが、ずっと一緒に居たみたいに会話が進んでいく。ヒロくんは、思い出したといわんばかりの表情でこちらをじっと見てきた。
「あっ。そういえば、ゆづちゃん俺の本名わかった?」
「あ、そのことなんだけど病室に書いてある名前見て思い出した」
「そんなことだろうと思ったぁ~」
「そういえばね、なんで私ヒロくんって読んでるの?」
私が疑問に思っていたことを口にするとヒロくんは得意気に話をしだした。
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