好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「わたしには父がおりません。
雇い主である伯爵様がお医者様を手配してくださったのですが、治療がうまくいかなくて――――」

「え……?」


 父親が居ない?


(どういうことだ――――?)


 ステファンの動悸が強くなる。彼は思わず身を乗り出した。


「居ないのか? 父親が?」

「……? はい。わたしは父親の顔を知りません。生まれたときからいなかったそうです。
ですから母はわたしを育てるために、ジェラルドの――――彼の乳母として伯爵家で働いていました」


 メアリーが隣のジェラルドを指す。ステファンは密かに息を呑んだ。


「君は……君たちは今、何歳だ?」

「18歳です」

(18歳――――)


 メリンダが城を去ったのは今から19年前。

 ステファンは自分と、メアリーとを交互に見遣る。それから口元に手を当てた。


(まさか、まさか……!)


 メリンダにそっくりな愛らしい少女が、自分をまじまじと見つめている。

 二人の繋がりを証明するものはなにもない。
 確かめる術もなにもない。


 けれどメアリーはきっと――――メリンダとステファンの子供なのだろう。


< 230 / 234 >

この作品をシェア

pagetop