もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 病院でと考えるとたしかに気が引ける部分もあるとはいえ、人前で夫婦らしくして結婚の事実を知らしめるなど、いくらでも手はあるだろう。

 そう、夫婦の練習もわからない。

 誰に向けてするものなのか。彼の両親でないことは、先日会ったときに察している。

 しかも言った本人が私を避けて過ごしているのだから、混乱するばかりだ。

 自分の中にこんなにも疑問があったなんて思わなかった。

 一気に噴出したそれを伝えたくて口を開くも、その前に蒼史さんが玄関のドアに手をかける。

「いつかのことを考える必要はない」

 蒼史さんはいつだって一方的だ。

 それが悔しい気がして、手をぎゅっと握り込む。

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