もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 厳しいことを言っている自覚はあるが、こんなところで新人に気を遣って無駄な時間を使うわけにはいかない。

 俺たちが考えなければならないのは自分の不安をどうにかすることではなく、目の前の患者をひとりでも多く助けることだ。

 新人に背を向けて手術室へ向かおうとしたとき、また次のストレッチャーが俺の横を通り抜けていこうとする。

 なにげなくそちらへ視線を向けて、心臓が止まりそうになった。

「柚子……!?」

 力なく仰向けになり、荒い息をこぼしているのは間違いなく柚子だった。

 彼女を搬送していた看護師が俺を見て驚いたように言う。

「八柳先生のお知り合いですか?」

「妻です」

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