もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 ただでさえ慌ただしかった場がさらに騒然とし、自然と俺の鼓動も速くなっていく。

 いつもなら逆だ。手術前は頭の中がクリアになり、心が凪ぐ。

 周囲がどれほど騒がしくても針を落とした音ですら聞こえるほど集中できるのに、今は自分をその状態に持っていけない。

「八柳先生、大丈夫ですか?」

 横から看護師に声をかけられ、うなずく。

 大丈夫かと聞かれるほど、俺の様子はおかしかったのか。

 先ほど言った通り、身内の手術で動揺するような医者ではないと、自分では思っているのに。

「ご心配には及びません。いつも通りにやるだけです」

 医者が動揺するなとよく後輩や研修医に言ってきた俺が、なぜ。
< 236 / 281 >

この作品をシェア

pagetop