もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 子供はとても弱くて脆い存在なのだと改めて思い知った気分だった。

 無力な自分に打ちひしがれながら売店へ向かう途中、階段の踊り場で途方に暮れた顔の男性とすれ違った。

 もしも祖父が生きていたら彼くらいの年齢だっただろうか。

 そんなふうに思わせる年老いた男性は、へたれた財布を覗き込んではため息をつき、また中身を確認する。

 ほぼ反射的に身体が動き、自分がどこへ行こうとしていたのかも忘れて話しかけた。

「お困りですか?」

 腰が曲がっている男性は私を見上げ、薄い革財布を差しだしてくる。

「クーポンがあったはずなんだけどね。見つからないんだよ。期限は今日までなのに……」

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