もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 冷たいのに甘くて、厳しいのに優しい不思議な魅力のある滑らかな声には覚えがあった。

 二度と聞くはずのない声だと思っていたのに……。

「──君、徳島さんを病室へ案内してくれ。C棟の八〇九号室だ」

 彼が近くのスタッフを呼び止めて指示を出す。

 余計なものをそぎ落とした話し方にも聞き覚えがあって、胸が奇妙に疼いた。

「それでは徳島さん、彼女についていってください。そうすればご家族と会えますからね」

「家族……。ああ、娘が会いに来てくれる約束だったんだよ。ありがとうね」

 スタッフに連れられ、徳島さんと呼ばれた男性がその場を立ち去る。

 それでもまだ、私は背後を確認できなかった。
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