もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 だけど立ち去る前にうしろから手首を掴まれた。

 振り返って彼の顔を見てしまい、後悔する。

 なにか言いたげで、それなのになにも言おうとしないずるい表情。彼の唇はひと言も言葉を漏らさないよう引き結ばれていた。

 もっと話をしたいと思った。

 息子だと伝えられなくても、優史の話を彼に聞いてほしい。

 私が今もどれだけあなたを求めて焦がれているか、伝えられたらいいのに……。

「蒼史くん」

 お互いに言葉を発さず見つめ合っていると、階下から現れた女性が蒼史さんの名を呼んだ。

 涼しげな顔立ちのきれいな女性だ。美人と言っていい。

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